漢方の歴史
〜古典漢方から現在の漢方まで〜
漢方のはじまりは、中国で西暦起源前後に、医学として確立されました。
漢方とは、明治時代に台頭した蘭方(オランダ医学、今の西洋医学のもと)に対してそれまでの中国医学が漢の方技・方術(医学の意味)ということで漢方と呼ばれるようになりました。
中国医学(以下漢方と呼びます。)は医学として確立されてから、約3千年の歴史があります。日本に伝わったのは、6世紀頃だと推測されます。
明治時代に蘭学が正式医学となるまでは、医学といえば漢方であったので、実に約1400年以上は、医学と言えば漢方だったのです。
漢方とは、古来から伝わっている書物である、古典が、その時代、その時代に編纂され、今日まで至っています。
漢方の医学の集積として、現存する最古の古典書は、「黄帝内経」「傷寒雑病論」「神農本草経」があり、このうち、黄帝内経は、「黄帝内経素問」と「黄帝内経霊枢」にわかれ、傷寒論雑病論は、「傷寒論」と「金匱要略」にわかれ
て伝えられています。
そして、これらの書物は、紀元前頃のものですが、すでに医学として確立されていました。
その後、それぞれの時代で、上記の古典書をもとに新たな漢方の医学書が、発表されてきました。
いろいろな時代で、治療に対する考え方が少しずつ発展してきました。
例えば”成無已”と呼ばれた医学者は、陰陽、五行説(治療の理論ではなく、もともとは中国の自然哲学)で「傷寒論」を解釈しました。これらは、内容のまったく異なる理論であるため成無已の説は、理論倒れで実践的なものがないとされました。
また宋時代の劉張派と呼ばれた人たちは、「和剤局方」と呼ばれる簡単に医療を行おうとする者たちの弊害をみて、復古主義を唱え、治療法としては、寒涼剤を多く使いました。
これは、疾病の原因は、火熱によるものだとし、身体の中の火を抑制したり、追い出すことが重要だとした考えです。
こういった治療を行う者達を寒涼派と呼びました。
また張従正は傷寒論の発汗、嘔吐、瀉下の三法を好んで行い、下剤を多く用いました。
病毒を身体の中から追い出すことが治癒につながるとし、こういった治療を行う者達を攻下派と呼びました。
1180年〜1228年、李こうは、新しい時代には、新しい処方を用いるべきだとし、劉張派の攻撃的治療は、体力を損なう弊害のあることを批判し、全身の体力増強を主眼とし、脾胃(消化器)を補うことに専念しました。
こういった治療を行う者達を温補派と呼びました。
1281年〜1358年は丹渓は疾病には、外傷と内傷があるが、脾胃(消化器)衰えれば、結局、全身が病むのだから脾胃を補って元気を引き上げるのが治癒の方法だとし、気は常に余りあり、血は常に足らずとして治療したので、こういった治療を行う者達を養陰派と呼びました。
それ以後には、医学的思想の大きな変化はみられませんでした。
中国も19世紀頃からは、西洋医学の影響を強く受け、現在の中国では、中西合作をすすめ西洋医学と中国医学の協力的医療が行われています。
日本では、まず最初に朝鮮半島の医学が伝わりました。
その後、中国医学が伝わり、以来、16世紀頃までは、各時代の中国医学を模倣していました。
16世紀以降には、田代三喜が李朱医学をもたらし、その意志を次いだ曲直瀬道三が自己の経験に古典医書をあわせて啓廸集を記して「後世法」と呼ばれるようになります。
これは、江戸中期からおこる「古方派」に対する呼び名です。
1628年〜1696年の名古屋玄医は古方を主張しました。
最古の古典書をもとに治療すべきだとする考え方です。
ただし、治療理論は古方ですべきと主張していますが、処方は、後世方も合わせいろいろな書物から柔軟にとりいれました。
1702年〜1773年の吉益東洞は、陰陽、五行、五運六気の説は憶測に基づくとして、脈をみず、万病は腹に根ざすとして腹診を重視しました。
16世紀以降からは、西洋医学が日本に入ってきた。
いわゆるオランダ医学です。
19世紀頃からは、次第に漢方と対立するようになりました。明治維新以降は、日本政府の西洋文化を主とする社会風潮とともに医学は西洋医学にとってかわりました。
明治8年以降は、ついに医療制度は、西洋医学の試験に合格したものだけが医師として認められ、漢方をいかに深く熟知していても医師としては認められなくなりました。
実に1300年以上も続いた漢方は、公では、幕を閉じたことになります。
しかし、歴史の深い漢方は完全に絶滅はしませんでした。
和田啓十郎医師が、「医界の鉄堆」という書を著し、これが、漢方復興の原動力となりました。
今日では、正統な漢方医の諸先生方が、少しづつ広め現在に至っています。
ただ、悲しいことに漢方が、医学の学問として広まったこととは裏腹に、マニュアル的に漢方治療を施そうとする者が現れたのも事実です。
歴史を振り返ってみるとお分かりになるかと思いますが、西洋医学と漢方は全く歩んできた道も違えば、歴史も違います。西洋医学の歴史は、この300年位でまだまだこれからの医学です。
一方漢方は、すでに2千年も歴史のある医学です。
ですが、その分、いろいろな考え方を基に発展してきた医学なので、マニュアル的に学べない部分も多く含んでいます。
どちらの医学も弱点を補いながら、発展していけば、やがて病気も駆逐できる
日が来るのではないかと考えています。